『計画』(段取の二)

『分析』の結果、目標実力資源の三点が明確化された。次に取り組むべきは『計画』である。

『逆算・梃子・緩衝』の三つをキーワードに、『分析』で得た情報を『実現可能かつ最短ルートの計画』に落とし込もう。

『逆算』(計画の一)

『計画』を立てる際には常に『Goal』を意識し、そこから遡る形で『Task(今取り組むべき課題)』を決定しなくてはならない。

つまり、大切なのは『逆算』である。

まずは『分析』で得た情報を土台にして、『長期計画』を策定する。

  • 四半期ごとに作成
  • 『Objective』を管理
  • 月末確認

それに続けて『長期計画』を細分化する形で『中期計画』を策定する。

  • 月ごとに作成
  • 『Target』を管理
  • 週末確認

最後に、『中期計画』を細分化する形で『短期計画』を策定する。

  • 週ごとに作成
  • 『Task』を管理
  • 毎晩確認

『計画』をこのように組み立ててゆくことによって、その場しのぎの非効率的な勉強から脱することが可能となる。

※『Goal・Objective・Target』については、すでに『分析』の節において説明済みであるが、一応それらも含めて説明しておこう。ここで言う『Goal・Objective・Target・Task』とは、たとえば以下のようなものである。

  • 『Goal』
    「今年度の早稲田大学商学部合格」「来年秋までの英検準一級取得」など
  • 『Objective』
    「河合塾第一回全統記述模試で英語偏差値65を取る」「志望校の過去問に出てくる英単語の内95%以上が一秒以内にイメージ出来る状態になる」など
  • 『Target』
    システム英単語の見出し語をすべて和訳できる状態にする」「英語の構文150を解説をすべて理解した上で一周する」など
  • 『Task』
    システム英単語Cards1を使用し、301番から600番までの単語を未知語と既知語に分類する」「どうしても覚えられない単語について語源を検索する」など

ちなみに青稲塾ではこれら『長期・中期・短期計画』を各種『スタディシート』(『Project』・『Chart』・『Schedule』)にて管理している。

『梃子』(計画の二)

受験勉強において成功を勝ち取るには、研鑽に研鑽を重ね、ライバルの伸びを凌駕し成長してゆかなければならないわけだが、その一番単純かつ効果的な方法は、使える時間を増やすことである。

ここまで「使える時間をどう割り振るか」について主に述べて来たが、そもそも費やせる時間の多少によっては、どれほど効率化を試みようとも限界がある。「学習の質を高め、1.5倍速で知識に習熟できるようになった」としても、使える時間が同じままであれば、「質が同じままだが勉強時間を二倍にした人」には敵わない。したがって、この項ではその時間の増やし方について触れる。

鍵は『梃子(てこ)の原理』である。

「新しい行動の習慣化は、すでにある習慣行動に結びつけることで成功率が高まる」ということが知られている。したがって、すでに存在する習慣的行動の前後に、勉強時間を確保してゆくという形で新しい勉強習慣の定着を図ればよいわけだ。

ただし注意すべきことが一点ある。習慣化を目論む新規の行動には心理的ハードルの低いものを選択すべきであるということである。初めから欲張ってはならない。

種を蒔き、環境を整え、水をやる。反応が見られなくとも、やがて出る芽を楽しみに辛抱強く世話を続ける。そうして出た芽をなお大切に育て続け、ようやく花や果実を生じる。とかく時間が掛かるのが自然の摂理である。わかりやすい成果を初めから得ようとしてはならない。まずは『習慣の芽』を作ることを心がけよう。

さて、習慣化の具体的方策であるが、これは以下三つのプロセスをくり返せばよい。めげずに取り組み続けよう。

  1. 既存の習慣行動を探す
    例)「毎日朝食を食べる」
  2. 前後に簡単な行動を追加する
    例)「朝食を食べる前に、必ず英単語を5個暗記する」
  3. 習慣化後、難しい行動に変換する
    例)「朝食を食べる前に、必ず英単語を10個暗記する」

もちろん『簡単な行動』がどの程度のものになるのかについては個人差がある。しかし、他者と、あるいは自己の理想像と比較して焦ってはならない。重ね重ね言うが、重要なことは第一に『習慣の芽』を作ることである。心理的抵抗をそれほど感じず、「これだったら続けられる」と思える範囲から始めよう。一気に完璧な習慣を作ろうなどとは、ゆめゆめ考えないように。

『緩衝』(計画の三)

計画時点で生じがちな致命的問題のひとつが『過積載』である。

認知バイアスについてのよく知られた仮説にダニング・クルーガー効果(wikipedia)というのがある。「能力が低いほど己の実力を過大評価する傾向がある」というものなのだが、これは往々にして勉強にも当てはまる。

本気で勉強した経験がない者は「その時間内には到底無理だろう」という分量を目標に掲げたり、「理論上は十時間勉強出来るはずだから、自分に関してもそれだけ勉強し続けることができるはずである」と考えがちである。

しかし、これまでに勉強習慣のなかった者が唐突に一日十時間勉強を習慣にしたり、立てた見積もり通りに状況が進展してゆく確率はどれほどのものだろうか?

それぞれの点について何らかの問題が生じるであろうことは想像に難くないし、その両方ともに問題がない確率となるとより一層低くなるだろう。かくして、せっかく決意を新たにしたにも関わらず、いつの間にやら自滅してゆく学習者が後をたたないわけだが、ここで重要なのが・・・

『緩衝』である。

必要となるであろう時間よりも多くの時間をあらかじめ確保しておくことで、想定を多少超えた場合でも計画が破綻しないようにする。具体的には以下の二点を心がけるとよい。

まず第一に、学習の初期段階においては、所要時間の『どんぶり勘定』を徹底すべきであるということ。『Task』の達成に必要な時間を感覚の1.5倍から2倍程度見積もるように心がけよう。もったいないと感じるかもしれないが、もし「想定したより短い時間で当該範囲の学習を終え、かつ意欲が湧いてくる」という喜ばしい場合には、追加で翌日分の勉強を行えばよいのだ。

破綻防止策その二は、週末に『返済日』を設定しておくことである。「実際と計画とのズレ」を修正することのみを目的とした日を計画にあらかじめ組み込んでおくことで、課題の後ろ倒しに対処するのだ。

たとえば、月から日曜まで『Task』をフルに詰め込むのでなく、金曜日までにすべての『Task』が終わるよう計画を組み、土日は不測の事態があったときのために空けておく。これで突発的・回避不能な出来事が生じた際にも、計画破綻リスクを低減させることが出来るわけだ。

なお『返済日』が必要ない状態、すなわちこれまでの進捗にも、これからの予定にも全く問題がないのであれば、『ごほう日』として遊び倒す。そのようなルールを設定しておくと、モチベーション維持にも一役買ってくれることだろう。