『睡眠』(定着の三)

睡眠は短期記憶を長期記憶に変え、日中の覚醒状況・集中力にも大きく影響を与える。よって、日々をエネルギッシュに過ごし、学習効果を最大限高めるには、質の高い睡眠を取ることが不可欠である。

この章では、より良い学習をサポートするために心得るべき『睡眠』にまつわるトピックを『就寝・起床・日中』のタイミングに分けて説明する。ぜひ参考にしてほしい。

『就寝』(睡眠の一)

翌日の学習を密度の高いものにするには、より良い睡眠を実現し、しっかりと体を休める必要がある。覚醒状態から睡眠状態へと移行する『就寝』のタイミングでは、なるべく強い刺激を避けるよう心がけよう。以下、時系列順に行うべきことを示す。

  1. 就寝6時間前からカフェインを断つ
  2. 就寝3時間前までに夕食を終える
  3. 就寝1.5時間前までに入浴を終える
  4. 入浴以降は照明を弱める
  5. 睡眠環境を整える

紅茶・コーヒー・コーラ・エナジードリンクなどの飲み物に多く含まれるカフェインによって眠気が妨げられてしまうことは、今さら説明するまでもないだろうが、その作用がどれほど持続するのかについては知らない人が多い。カフェインの覚醒効果が出始めるのは摂取から30分前後で、約3時間後に最大となり、完全に消失するには摂取後5時間から7時間を要する。よって、睡眠が妨げられるのを防ぐには、目安として少なくとも就寝6時間前からは、カフェインなどの刺激物を断つように心がけよう。

次に夕食についてだが、食後3時間は摂取した食料を消化すべく、胃腸の働きが活発になるため、熟睡するのが難しくなる。 そのため、就寝時刻の3時間前までには夕食を終えているよう心がけたいところである。とはいえ、遅くまで熱心に勉強する学生には、夜食がなければ空腹で眠れない夜もあるだろう。そのように、どうしても遅い時間帯に食事を取らざる得ない場合は、うどん・粥・バナナ・リンゴなど、なるべく消化に良いものを選んで食べるようにしよう。

食事が終われば、次は入浴だ。湯船に浸かろう。というのも、第一に眠気は深部体温の低下とともに訪れ、第二に我々には「外部環境に関わらず、体内を一定状態に保とう」とする働き、つまり恒常性が備わっており、第三に湯船に浸かることは、シャワーよりも、一層効果的に深部体温を上昇させるからである。つまり、湯船に浸かることで一時的に急上昇した深部体温は、恒常性によって(約90分間程度で)下降し、その結果として心地よい眠気が実現するのだ。

また、可能なら、入浴後は寒色系の強い照明(蛍光灯、テレビ、スマホなど)は避けることをすすめる。 入浴後に勉強する際は、暖色系の光のもとで行うか、あるいは布団の上でその日に身に付けたことを思い出してみるのもよいだろう。

就寝直前には睡眠環境も整えておきたい。0.3ルクス前後の光環境(レースのカーテン越しの月明かり程度の明るさ)、32-34℃かつ湿度40-60%の温熱環境(暑過ぎず寒過ぎずの快適な布団の中)、40デシベル未満の音環境(人のささやきより小さい音量)に可能な限り近付けよう。つまり、間違っても、電気を付けたまま、暑すぎる布団の中、ラジオや音楽を聞きながらの睡眠は避けよう。

以上の点に注意し、熟睡出来るよう条件を整えた上で、高校生は7時間、中学生は8時間、小学生は9時間の睡眠を最低限の目安としよう。 ただし、必要な睡眠時間は個人差が大きいのも確かである。 目安となる睡眠時間を確保し、数週間過ごした後、それでも日中眠いのであれば、行うべき『Task』を考慮し、睡眠時間を増やすことを推奨する。

『起床』(睡眠の二)

1日を最大限効果的に使い倒すには、起床直後から精力的に動き始めることが欠かせない わけだが、そのためには睡眠状態から覚醒状態へと移行する『起床』のタイミングで、意識的に強い刺激を取り入れることが肝要である。以下に具体例を時系列順に示す。

  1. 目覚ましを活用する
  2. 数分間沐浴を行う
  3. 皮膚温度を下げる
  4. 深部体温を上げる
  5. よく咀嚼する

特に浪人生にありがちだが、 夜半の勉強に興が乗ってしまい、気がつけば窓の外が白み始める時間帯。 今日はこれだけ勉強したのだから、明日は昼過ぎに起床して、ゆっくり勉強を始めればいいや・・・。 この考え方は非常に危険である。

と言うのも、あらゆることに言えるのだが、物事を楽にこなすためのコツは、習慣の力を活用することである。そして、それは同じ条件下で同じ行動を複数回行うことによって成立する。要するに、毎日決まった時間、定刻に起床するのが結局は一番楽だということなのだが、ではどうするか?

まず第一に、決まった時刻に目覚ましをセットすることである。 必ず「決まった時刻に」である。 最近疲れてるからとか、遅くまでたくさん勉強したからとか、そういった理由で起床時間を後ろにずらしてはならない。7時に起き得るのであれば毎日7時にセットする。例外を許してはならない。調整すべきは、起床時刻ではなく、就寝時刻の方であると心得てほしい。

なお、どうしても二度寝してしまう場合は、本命のアラームの20分前に、もうひとつアラームをセットしておく、ダブルアラーム作戦を薦める。1つめは「目を覚ますこと」を目的としてベット脇に、2つめは「寝具から出ること」を目的として寝室のドア周辺に置いておこう。とにかく、心地よい環境から、いかに素早く距離を取れるかが肝心である。

上手く寝床から脱出できたら、すぐに日光を浴びるとよい。我々の体内時計は24時間よりも若干長く設定されているのだが、日光、音、食事、運動などによって、それをリセットし、 地球のリズムに体が合うを調節していくと言う仕組みになっているのだ。 とりわけ、日光はその調整能力が高い。ということで、快晴の日には起床後数分間の沐浴を習慣にしよう。

 

太陽の光で目が覚めたら、次に皮膚温度を下げるとよい。たとえば、冷水で洗顔し、その後10秒程度手を浸すなどするとよいだろう。我々は深部体温の上昇とともに目が覚めるわけだが、これを行えば、深部体温と皮膚温度の差をさらに広げることが可能となり、結果的に覚醒をサポートすることが出来る。

身だしなみを整えたら、次は温かい飲み物を飲むなどして、深部体温の上昇をサポートしよう。特に夏場には冷たいものを飲みがちだが、覚醒への貢献度という視点で見ると、朝食には味噌汁やスープなど温かいものを飲む方がよいだろう。

なお、朝食にも注意点がある。よく咀嚼することだ。短時間で大量に食べてしまうと、一時的に血糖値が急上昇し、その反動で血糖値が急降下し、結果として眠気を誘引してしまうのだが、よく咀嚼することでこれを抑えることができる。というのも、 咀嚼回数を増やせば、それによって満腹中枢がより効果的に刺激され、より少ないカロリーで満腹感を感じることができる。そもそも全く同じものを摂取したとしても、咀嚼回数を増やせば、血糖値の上昇が緩やかになるという、朝食に関してではあるが、そうした研究結果もある。目安としては、食事には出来れば30分程度かけ、一口につき40回程度咀嚼するとよいだろう。

『日中』(睡眠の三)

『日中』のより良い覚醒状態の維持は、密度が濃く、効果の高い学習に必須であり、よりもたらされた心地よい疲れは、より良い睡眠に、そして、それはまた日中のより良い覚醒状態へと繋がってゆくのだ。

以下では、これらの2つ方向から『日中』の過ごし方において推奨されることを並べる。

  1. 強い照明を活用する
  2. 温度に気を配る
  3. 短時間の仮眠を取る
  4. カフェインを摂取する
  5. 軽い運動を行う

光環境が睡眠に大きく影響を与えるのは、すでに話した通りだが、強い覚醒状態を保ち、勉強し続けたい『日中』においては、不用意に眠ってしまわないよう、蛍光灯などの強い照明の下で勉強することがまず重要である。

『日中』に気をつけるべき点その二は、温度に気を配ることである。たとえば、夏場に暑いからと言って、あまりにも低い室温の中勉強してしまったり、またその逆に、冬場に暑すぎる環境で勉強していないだろうか。

眠いときにはただでさえ深部体温が下降し、皮膚温度との差が開いているわけだが、冷たい飲み物を飲んでしまうと、深部体温下降に拍車がかかってしまい、結果的に眠気を強めてしまう。運動後などの深部体温が急上昇している場合は別だが、快適な環境で勉強しているのであれば、不必要に冷たい飲み物を飲まないようにしよう。

また、これは『起床』のところでも説明したが、眠くなってきたら冷水に10秒程度手を浸してみよう。

それでも、どうしても眠い・・・。そんなときもあるだろうが、その際は短時間の仮眠を取るとよい。目安としては15分から30分。意識が現実と夢の境界線を跨いでいる状態で勉強しても、決して上手く記憶に残すことは出来ない。割り切って寝てしまおう。大局的に見れば、その方が得られるものがはるかに多くなる。ただし、夕方以降の仮眠は夜間の熟睡を妨げ、翌日以降の

あまり習慣にしたくはないが、どうしても起きていられないときには、カフェインを利用するのも一手である。ただし、カフェイン飲料は大量の糖分を含むことが多く、健康面を考慮すると常飲に適したものではないし、その上、常飲すると耐性が付き、やがて効力を感じづらくなってゆく。無論、毎日となると金額も馬鹿にならない金額。それでも、その覚醒効果は魅力的である。不測の事態が発生し、どうにも眠気を断ち切りがたい・・・。そういった場合には、仮眠を取る直前にカフェインを摂取しすると、相乗効果で学習効率を向上させられるだろう。

なお、余裕があれば、ストレッチやウォーキングなどの軽い運動を『日中』に短時間取り入れることもおすすめしておく。メリットは三つ。第一に、脳への血流量が増し、覚醒効果がある。第二に、長期間の学習において肝要な体力を底上げすることが出来る。第三に、適度に体力が減ることで、夜間に眠気が生じやすく、結果的に快眠につながる。一石三鳥だ。ぜひとも習慣として欲しい。