itとthatの違い[青稲塾そこ知り英文法052]
問題
問題。「それ、Paulに貸してあげてくれる?」を英訳すると正しいのはどちら?
- Will you lend Paul it?
- Will you lend Paul that?
答え↓
- 後者。that。
解説
前回(itとoneの違い[青稲塾そこ知り英文法051] )にも触れたようにitは前出の名詞の代用として使われますが、他にも漠然とした状況や、文全体などを指す用法もあります。一見捉えどころのなさを感じる語ですが、しかしそのコアをあえて一言で言い表すなら「共通理解」ということになります。「状況から考えて相手もわかるだろう」と思ったときに、話し手はitを使用します。たとえば「Benが犬を買い始めたらしい。見に行こう!」だとか、「ベッドの下に何かいる。見てみてよ。」だとかいうときがitを使うタイミングです。天候や時間のitも、「話の流れ上相手もわかるだろう」と考えて使われます。
- I hear Ben started keeping a dog. Let's go and see it.
- There's something under the bed. Look at it.
対して、thatのコアは「thisではない。thereにある」です。this「hereにある」と対称をなす、遠くにあることを示すのがthatです。あくまでも遠くのモノを指すのがその核心なので、たとえ「聞き手はわからないだろうな」と思うモノであってもthatで指し示すことができます。たとえば「(犬が近づいてきたのに気付き、唐突に)あれ見て!」という場合などですね。
- Look at that! There's a dog coming here.
「こっちではなく、あっち」というイメージ、つまりthisとの対称性に由来し、thatは「あるものを他のものと区別する・強調する」という機能も持ちます。「他の何者でもない」といったところでしょうか。itを使えるタイミングで、わざわざthatを使うときには「ココ重要!」とハイライトが入っている感覚があるようです。ちなみにthisもこうした機能を持ちます。
- She decided to drop out of school. It upset her parents a bit.
- She decided to drop out of school. That really upset her parents.
さて、これが情報構造の知識と絡めて問われたのが冒頭の問題です。旧情報と新情報の違い[青稲塾そこ知り英文法021]で話した通り、英語では文法的に許容される範囲内で、「旧情報をなるべく前へ・新情報をなるべく後ろへ」配置するルールがあります。もうおわかりでしょうが、共通理解を前提とするitは完全に旧情報ですので、この場合はlend it to Paulの語順にしなければなりません。対して、区別・強調の感覚を持つthatは新情報になりえますので、lend Paul thatの順で問題ないのです。したがって、こちらが正解というわけです。
- Will you lend Paul that?
類題
問題。以下の[ ]にitかthatを入れ、英文を完成させましょう。
- What's [ ]? I've never seen [ ].
- You have something strange. What is [ ]?
- She gave up [ ].
答え↓
- What's [ that ]? I've never seen [ it ].
- You have something strange. What is [ it ]?
- She gave up [ that ].
本日のまとめ
- itは「共通理解のある何か」
- thatは「thereにある何か」他者との区別。