『構造』(習熟の二)

「何に『焦点』を絞るべきか」が明確になったら、次に行うべきは『未習』の知識とその関連知識の間にリンクを貼る、つまり知識間の『構造』を認識する過程に入る。

『同質・異質・連鎖』で『問い』を立て、それに対する『解』を探る過程を通して関連知識とのつながりを発見し、学習対象の特性を多角的に観察しよう。

『同質』(構造の一)

対象についての理解を深める方法その一は『同質性』による関連付けである。

学習対象と『=』で結びうる概念を探し、それと関連付けることによって学習対象への理解を深めてゆく方法であり、これはさらに『変形・敷衍・要約』の三つの具体的手法に分かれる。

ここで言う『変形』とは、抽象度や内容は変えずに形式のみを変換することで、対象についての新たな洞察を得ることを言う。『変形』を試みる際に立てるべき『問い』は「見かけを変えると?」である。

以下に『変形』の活用例をあげる。参考にしてほしい。

  • 英文法用語(主語・補語・目的語など)について何がなんだかわからん・・・。
    →用語の定義を調べて、言い換えてみる。
    主語とは「動作の主体を表す語」
    補語とは「主語や目的語となっている名詞の後でその状態や性質の説明を行う語」
    目的語とは「動作や行為の対象を表す語」
    あやふやな事柄に対して教科書や参考書を開く手間を惜しんではならない。(換言・解説)
  • 単語帳に載っている和訳の意味がわからん・・・。
    →対応する和訳の意味を調べて、言い換えてみる。日本語訳の意味もわからず、音や字面だけ覚えても長文読解にはつながらない。手間を惜しまず辞書を引こう。(換言・解説)
  • 英単語が覚えられない・・・。
    →類語調べ(換言・解説)
    →付属音声(聴覚化)
    →画像検索(視覚化)
    →スケッチ(視覚化)
  • 数学の公式の意味がわからん・・・。
    →日本語に換言(換言・解説)
    →図の活用(視覚化)
  • 関数の意味がわからん・・・。
    →表・グラフ(視覚化)
  • 数式がゴチャゴチャしてて、見通しが立たない・・・。
    →複雑なものを文字で置き、見通しの立つように変換。
  • 文章から式を立てられない・・・。
    →声に出してみる(聴覚化)
    →線分図や面積図(視覚化)
    →未知のものを文字で置くことで、「?」にカタチを与える。

未知の概念・納得のいかない説明・覚えづらい知識に出会ったときには、まずはこうして自己に問いかけ、それに対する答えを考えたり、書籍で調べてみることを強くおすすめする。『変形』に限ったことではないが、一般的に学習の成否を分ける要因としてとりわけ強く働くのは、いかに能動的に知識を獲得するよう努めるかという、前向きな学習姿勢の有無である。くれぐれも思考停止の機械的丸暗記は避けよう。

閑話休題。大筋に戻ろう。次は『敷衍』である。これはより抽象度の高い概念を個別具体的な状況に適用することを通し、対象についての新たな洞察を得ることを指す。これに対応する『問い』は「詳しく表すと?」である。以下に具体例を示す。

  • 単語が覚えられない・・・。
    →辞書などで調べた複数の例文を活用し、その単語の具体的使用法、それが表す概念、ニュアンスなどを掴む。
    →長文中の文脈を活用し、その単語の具体的使用法、それが表す概念、ニュアンスなどを掴む。
    →実際の使用場面を考え、その単語の具体的使用法、それが表す概念、ニュアンスなどを掴む。
    →覚えたい単語を使って英文 を作ることを通し、その単語の具体的使用法、それが表す概念、ニュアンスなどを自己に馴染ませる。※指導者による添削必須
  • 公式の意味がわからん・・・。
    →公式に具体的数値を複数代入し、公式のルールを把握する。
    →公式が感覚的に適用できる慣れ親しんだ日常の一コマを考える。

そして最後に『要約』である。個別具体的な事柄の共通部分に着目し、それらをまとめ上げる、より普遍性の高い概念に変換したり、あるいはそうした概念を探し、活用することにより、新たな洞察を得ること。対応する『問い』は「ざっくり表すと?」である。

  • とある英単語の意味が多すぎて覚えられない・・・。
    →意味の共通点をまとめてその単語のコアイメージを形成
  • 文法が覚えられない・・・。
    →複数文法項目の抽象化。たとえば、過去分詞形の持つ「静的」というコアイメージを通して「完了形・受動態・過去分詞形容詞用法・過去分詞構文」を俯瞰する。
  • 公式が覚えられない・・・。
    →その公式の核心を一言で表現
  • 公式の導出法が覚えられない・・・。
    →その公式導出過程の具体的計算部分や、比較的重要性の低い式変形などを削ぎ落とし、その導出過程を端的に表現。
    →たとえば、こちらのページの方法(金沢工業大学KIT数学ナビゲーション)で加法定理を導出するのであれば「まずは大きい直角三角形の周りに二つの直角三角形をくっつけて滑り台を作り、次に各辺を角度とサイン・コサインを使って表し、最後に滑り台を長方形と直角三角形に分ける」と抽象化しておけば、だいぶ記憶を引き出しやすくなるだろう。
  • 解法が覚えられない・・・。
    →その解法の具体的な計算部分や、比較的重要性の低い式変形などを削ぎ落とし、その過程を端的に表現してみる。たとえば、この問題の解法は「三角関数の合成公式を使用し、変数を減らした上で、単位円を描いて求める」のように。

『異質』(構造の二)

対象についての理解を深める方法その二は『異質性』による関連付けである。

学習対象と『≠』で結びうる概念を探し、それと関連付けることによって学習対象への理解を深める手法である。具体的手法として、さらに『還元・対比・仮想』の三つに分かれる。

ここで言う『還元』とは、複数のルールが組み合わされた結果として複雑に感じられる事柄をそれを構成する部分に解きほぐすことを指す。対応する『問い』は「異なるものは何と何?」である。以下に活用例をあげる。

  • 複雑な文法事項(たとえば仮定法)が理解できない・・・。
    →時制(現在or過去)と法(直接法or仮定法)に分ける。
  • 展開して同類項をまとめる計算たとえば 「(x+2)(x+3)+x(2x+1)を簡単にせよ」という問題を解くのが遅い・・・。
    →文字ごとに展開して、係数をまとめる。一般的に中学校などでは「展開し、カッコを全部外してから同類項をまとめよう」と習う。しかし、文字に着目すれば「xの二乗、xの一乗、定数」の三種類のみであり、あとはその係数だけ考えればよい。このように、「次数を網羅すること」と「係数の計算」を分けて行うと、迅速かつ正確な計算が可能となる。

次に『対比』である。これは、混乱の元となる似通った概念に出会ったときに、その共通点と相違点をまとめる過程を通して、対象についての新たな洞察を得ることを指す。対応する『問い』は「違いはどこ?」である。以下に活用例をあげる。

  • 似た単語(たとえばadaptとadopt)を混同してしまう・・・。
    →揃えて書き並べ、違いをわかりやすくした上、さらに調べる。つづり的にはaptとoptの違い。語源的には、aptの部分は「〜しがちな・ぴったりの」を表す英単語aptと、optはoptionと同じである。よって、adaptは「適応させる」で、adoptは「採用する」の意味を持つ。このように覚えることが出来れば忘れにくい。
  • 新出の文法事項(たとえば現在完了の完了用法)がイマイチわからん・・・。
    →過去形と比べてみよう。両者は「〜した」という和訳になるところが共通点だが、過去形は過去のことについて、現在完了はあくまでも現在の状況について、説明する文法事項であるという点で相違がある。たとえば「今現在家に入れない」ということを説明したいがために、「鍵を失くしてしまった」ということを伝えたい場合好まれるのは現在完了である。(ただしアメリカ英語においては、現在完了完了用法を過去形で代用することも多い)
  • 恒等式がわからん・・・。
    →方程式と比べてみる。共通点は「両者とも等式である」ということ。その差は「恒等式はいつでも成り立つのに対して、方程式はそうではない」という点。つまり、両者の間にあるのは「普遍と特殊」の違いである。よって、方程式とは異なり、恒等式の場合には係数比較法が利用できる。
  • 相似条件が覚えられない・・・。
    →合同条件と比較する。合同は「大きさとカタチ」がそれぞれ同じであることを、対して相似は「カタチ」が同じであることを表す。「カタチ」が同じであることのみ示したければ「辺の比が等しい」だけで済むので、合同条件における「辺の長さが等しい」が相似条件においては「辺の比が等しい」に変化する。また、「カタチ」が同じであればよく、よって角度が同じことさえ示せればよいため、「一辺両端角相等」が「二角相等」に変化する。このように考えることが出来れば、相似条件はすぐに頭に入るだろう。

そして最後に『仮想』である。これは構成要素の一部を実際とは異なる値に変化させ、その結果を観察することで理解の足がかりとすることを指す。対応する『問い』は「もしAじゃなくBだったら?」だ。以下に活用例をあげる。

  • 要素・変数が多すぎてわけわからん・・・。
    →仮に要素・変数を減らして考えてみる。
  • 動点が二つあってどうしていいやらわからない・・・。
    →片方の点を止め、もう片方の点についてのみ考えてみる。
  • 次数が高すぎる方程式に複雑過ぎる値を代入しないといけない・・・。
    →次数下げを繰り返す。
  • 場合の数がわからん・・・。
    →登場人物を減らしてみる。「三人だったら?」とか「男子だけだったら?」を考えてみる。
    →男子を固定し、女子の並びだけ考える。「男子が同じところに固定されている場合、それに対する女子の並びはどのような場合の数になるだろうか?」を考えてみる。
  • 数列がわからん・・・。
    →限りなく大きい場合を考える
    →限りなく小さい場合を考える

『連鎖』(構造の三)

対象についての理解を深める方法その三は『連鎖性』による関連付けである。

学習対象と『→』で結びうる概念を探し、それと関連付けることによって学習対象への理解を深める手法である。具体的手法として、さらに『順行・逆行・経由』の三つに分かれる。

ここで言う『順行』とは、学習対象を始点から終点へ、本来そうあるべき順序に沿って考える方法である。対象を根本要素から派生した要素として捉え、その根本要素を対象を理解する助けとする。対応する『問い』は「その前には何がある?」である。

具体的には以下のものが挙げられる。

  • 単語(たとえばeffort)が覚えられない・・・。
    →語源を調べる。effortの中にあるfortは「力」を表し、forceと同語源。「何かしらの対象(たとえば勉強など)に力を込める様」をイメージし、「努力」と結びつけたい。
  • 助動詞の入った文が正確に作れない・・・。
    →まずは助動詞の入っていない文ならどうなるか考えてみる。たとえば「彼は速く走ることが出来る。」であれば、まずは「彼は速く走る。」ならどうなるかを足がかりにしよう。
  • 文章全体の要旨がわからない・・・。
    →一文を正確に解釈し、段落の内容を整理し、段落間の関係性を把握する中で要旨に迫る。
  • 公式が覚えられない・・・。
    →結果としての公式のみ覚えてるから忘れやすい。公式の導出過程を理解することが大切。たとえば、余弦定理を例に取ると、その根本は三平方の定理である。
  • 解法が浮かばない・・・。
    →より規則性・対称性・単純性の高いもの、基礎への帰着。

次に『逆行』である。これは先述したものとは逆に学習対象を終点から始点へ、あるべき順序に逆らって考える方法である。対象が結果的にどのように応用されるのか、派生要素を頼りにそこから戻って来る形で理解を深める助けとする。対応する『問い』は「その後には何がある?」である。

  • とある一文が解釈出来ない・・・。
    →文章全体の主題をざっとで構わないので、できる限り把握した後で、それをヒントにその文の解釈を考える。
  • 解法が浮かばない・・・。
    →結論から必要な要素を考える

  • 三角関数の合成公式が覚えられない・・・。
    →加法定理の逆演算として捉えて、加法定理を活用するためには何が必要かを考える。

最後に『経由』である。「AだからB」の「A」と「B」それぞれの意味はわかるのだが、何故その二つがつながりうるのか判然としないことがある。こうした場合には、要素間の論理的一貫性を直感的に確信することを可能とする『隠れた中間項』を探すことが重要不可欠である。有効な『問い』は「間には何がある?」である。

  • 英単語(たとえばconsider)の語源と意味のつながりがわからん・・。
    →considerの語源を調べた結果として「conはtogether、siderはstarを表す」ことがわかった。つまり、considerを語源的に考えると「星と一緒に」ということになるのだが、では、なぜ「星と一緒に」が「熟考する」になるのか?
    西洋において昔は占星術(重要なことについてよく考える際に星の運行を参考にしていた)が盛んだったということに思い至ることが出来れば「星と一緒に」(→「星の運行を参考にすることで熟考・熟慮」)→「よく考える」のように、二つの知識の間をつなぐことが出来る。
  • 文頭のto不定詞の働きが定まらない・・・。
    →「文頭のto不定詞が名詞用法でないなら、副詞用法である」という記述に「形容詞用法だってあるじゃないか」と納得がいかないとしよう。
    であれば、「文頭のto不定詞は名詞用法と副詞用法の二択である」という事実がどこから生ずるのか、まずはその理由を探してみたい。
    すると・・・「不定詞の用法は名詞・形容詞・副詞の3つ」であり、「形容詞的用法の場合は、something to drinkのように、名詞に対して後ろから掛かる」という2つの事実が参考書などに見つかるだろう。つまり、文頭のto不定詞が形容詞的用法であることはないということである。
    ここにおいて、本来は三択であるはずのto不定詞の働きが「文頭にあるがため、二択となる」ということになり、その結果として「文頭のto不定詞が名詞用法ではないなら、副詞用法である」という記述にも納得出来るようになるだろう。